学校に行かない生き方
2023年8月24日

【イベントレポート】6/22 学校に行かない生き方って知ってる?#6

編集部

『学校へ行かない生き方』第6回のゲストは、望月 彩(もちづき あや)さん。

通信制高等学校のサポート校『教育アカデミー』の2代目代表として数多くの高校生に接してきた、望月さんの考える『これからの学び』を中心に、配信のハイライトをお届けします。

仕事も子育ても諦めなくていい会社

【菊澤さん】
まず望月さんの簡単な自己紹介をしてもらっていいですか?

【望月さん】
わかりました。

今は私が2代目の代表として務めさせてもらってるんですけど、元々『教育アカデミー』は私の父が始めた会社で、私自身は大学卒業後、宝飾品の専門商社みたいなところに入社して、12年くらい営業を担当していたんですね。

途中、産休や育休を取ったりして、子育てしながら働いてた時期があったんですけど、同じ時期に父が体を悪くしちゃって。それで自分の会社に来ないかって話になり、『教育アカデミー』に入ったんです。

なので、元々教育業界にいた人間ではないんですけど、なんだかんだで『教育アカデミー』に入ってから7年ぐらい経ちました。

【菊澤さん】
宝石の会社?

【望月さん】
そうなんです。宝飾品とか宝石の商社で、卸売もやってましたし、小売というか、宝石を持って直接お客様のお家にオススメしに行ったりとか、そういうことを10何年やってました。

【菊澤さん】
そもそも宝石関係というか、そういうお仕事をやってみたいって気持ちがあったんですか?

【望月さん】
学生の頃からよくアルバイトをしていたので、働くってこと自体がなんか好きだったんですよね。

そうして働いていくうちに女性が長く続けられる、それこそおばあちゃんになっても働ける仕事ってなんだろうって考えてた時に、宝飾品ってお客さんの年齢層が高いから、そこでスキルや知識を身につけたら、一生働けるんじゃないかなと思って宝石関係の仕事を選んだんです。

【菊澤さん】
じゃあダイヤモンドなんかも扱ってたってことですか。

【望月さん】
そうですね、ダイヤモンド以外にも、あらゆる宝石を扱ってました。

【菊澤さん】
すごい!

でもそれじゃいきなり教育関係の仕事をしないか、って言われた時に『ちょっと無理』みたいな感覚はなかったんですか?

【望月さん】
ありました!

父が塾をやっていた頃から教育分野の大変さは伝わってましたし、通信制高校を始めたっていう時も『今日は赤毛の男がバイクを乗り回していて警察が来た』なんて話を聞いてたから、『私にできるかな』って思いはありましたけど。

『教育アカデミー』に来ないかっていう話が私に来たのって、前職で私が産休を取った後、職場に復帰して何年か経ったくらいの時期だったんですね。

宝石の業界って意外と男社会なので、私がすごい営業頑張って、ずっと積み上げてきた実績が産休中にガラッと塗り替えられちゃってて。

私も負けず嫌いなので、自分より年下の男の子たちがすごい頑張ってどんどん上に行ったりしてるのを見ると『負けるもんか』と思って、復帰後も踏ん張ってたんですけど、百貨店とか行くと土日も仕事だったりするわけで。

 『これ、ちょっと子育てとの両立って苦しいな』って感じてましたし、このままだと家庭が崩壊しちゃう、みたいな状況だったので、 父の会社をって言われた時『これだったら、家庭と両立できるかもしれない』と感じたのも転職した理由としては大きいと思います。

もちろん高校生や若者を支援するっていうのが第一の目標ですけど、私自身の経験も含めて、そういう理由を抱えながら『教育アカデミー』に入ったので、 今は女性が仕事も子育ても諦めなくていい会社を作りたいなって思いながら、代表を続けている部分はありますね。

オーダーメイドな学校生活

【菊澤さん】
『教育アカデミー』みたいなサポート校っていうのは、実際どんな感じなんでしょうか。通信制高校とはまた違うんですよね?

【望月さん】
そうですね。通信制高校というと、鹿島学園という学校が草分け的な存在なんですけど。

鹿島学園の本校は茨城県にあるんですが、広域通信制高校というだけあって、色々な地方に住んでいる生徒が在籍してるんですね。

ただ、全国に本校みたいな施設を用意するわけにもいかないし、かといって手元にしっかりした教材があったとしても、自学自習じゃやりきれないじゃないですか。

鹿島学園はそういうニーズを捉えるのがすごい得意で、とにかく自宅から近いのが通い続ける秘訣だよね、っていうことで全国に300個くらい教室を作って、各サポート校にその運営を任せる、っていう仕組みになっているんです。

生徒は基本的にその教室に通いながら勉強するわけですけど、サポート校ごとに特徴が色々あって、うちは全体授業をやるとかじゃなくて、好きな時間に来て『先生、今日はどこやればいいの?』『じゃあ今日はこっからここまでやって帰ろうね』みたいな形で進めてもらって、要所要所で先生がフォローしていく、というスタイルでやってます。

【菊澤さん】
自宅学習だと、やっぱりわからなかった時にすぐ教えてもらえるわけじゃないし、勉強が一向に進まなかったりするとつまずいてしまうけど、そういうところのサポートを一緒にしてくださるってこと?

【望月さん】
そうですそうです。『教育アカデミー』は全部で8キャンパスあって、合計330人ぐらいの生徒がいるんですけど、小学校・中学校にあんまり行けてなくて高校に進学するっていう時に、全日制ではなく通信制を選択するっていう子が半分ぐらい。

もう半分は、全日制の高校に入ったんだけども、人間関係でつまずいたり、学習面で追いつけなかったりして『一旦切り替えて通信制に行こうかな』みたいな子が多いです。

あと、最近ちょっと増えてきてるのが現役の高校生世代ではない方、いわゆる学び直しのために教室に来る方がおられるんですね。

K2さんと提携してる根岸の教室も、そういう学び直しができるような教室になってますけど、実はその取り組みが始まる前に別のキャンパスになんと80代のおばあちゃんが来たんですよ。

『高校を卒業しなかったのがずっと心残りだったけど、今からでもできるかしら』って。

そういうこともあって、もちろん高校生世代が主ではありますけど、幅広い年代の方が今はいるっていう感じですかね。

【菊澤さん】
いろんな世代の人たちが、自分たちの学び直しのためにそれぞれのペースで勉強するみたいな。

【望月さん】
ですね。今の時代、朝が起きれないとかいう子、割りといるじゃないですか。でも、午後だけのコースがあれば午後からは出てこれるとか、そういう子も結構多いです。

【菊澤さん】
ちなみにこの『教育アカデミー』では、他の教室にはないような特徴とか魅力とかあったりしますか?

【望月さん】
うーん、よく皆さんに『通信制高校、どうやって選んだらいいですか』とか聞かれますけど、『教育アカデミー』が1番強みにしてるのは、どんな特性を持った子でも、その子のペースを絶対大事にしてあげたい、っていうのを必ず最初にお話ししてるんですね。

通信制高校に来る子ってそれぞれ悩みが違うんですけど、『こういう悩みがあるんです』っていうのに対して『じゃあこういう方法だったらできるんじゃないですか』とか、そういう提案をするので、1人1人学び方が全然違うんです。そういうオーダーメイドな学校生活を受け入れてもらえる場所みたいな感じなのかなって。

【菊澤さん】
確かに学校ではそういう特別扱いって、一番してはいけないことというか。

【望月さん】
そう、それが全日制の高校ではできないことなのかなって。全日制ではどうしたって、仕組み的に皆を同じように平均的に見なきゃいけませんから、1人1人特別扱いっていうのは出来ない。

で、全日制がそうであるとすれば、通信制はやっぱりその逆でないといけないと思ってて。

【菊澤さん】
多分、学びのスピードも違えば、持ってる性格も違う子たちがたくさんいるし、それだけいろんな子がいる中で、その子に合わせたカリキュラムを組むって、結構大変やけど、参加してる子にとっては、すごいありがたいですよね。

【望月さん】
ねえ、そうですよね。

子どもたちが教室で学んでるのを見てると、急かされたりせずじっくり見守って、自分のペースを大事にできるところであれば、 みんな思ってる以上の実力を出せるんだなっていうのを本当に感じます。

『小学校行ってなかったのについていけるかな』とか不安に思う方もいらっしゃいますけど、全日制と同じスピードというのは難しい子でも、 自分なりのスピードでやらせてあげればみんなちゃんとできてるので、そういう意味では通信制ってすごくいいシステムだなって、私は思います。

この人がいたから

【菊澤さん】
今チャットから質問があったんですけど、今まで関わった生徒さんの中で、すごい思い出深いエピソードとかあったら、ちょっと教えてもらえますか?

【望月さん】
はい。えーっと、とある全日制高校を辞めてきた5人ぐらいのヤンキーっぽい集団の子たちがいたんですけど、そのうちの1人のことはよく覚えてますね。毎日モーニングコールから始まるような、もう『手取り足取りとはこのこと』っていう感じでした。

で、『スクーリング』っていう普段の教室とは違うところに行く日があるんですけど、その子はもう単位を落として落として落としまくって、結局栃木の宇都宮まで行かなきゃいけなかったんですよ。

それを私が『この時間の、この電車に乗って、この駅に行くのよ』なんて再三強調して、当日も『今東京駅に早く着いて、時間があるから駅弁買う』なんて、駅弁の写真とか送られてきて。

『でも良かった。これでもうなんとかなる』とか思ってたら、反対方向の電車に乗っちゃったんですよ。『もおー何やってんの!?』みたいな感じで。

それから急いで電車の時刻を調べて 、『次はこの電車に乗って! 次はこの電車に乗って! 駅に着いたらすぐタクシーに乗って!』って、ずっと電話を繋げたまま、なんとか事なきを得たっていう子がいたんですけど、 もう本当に手がかかる子だったんですよね。

けどその子すごい料理が好きで、『料理の道に進む』って言って調理の専門学校に行ったんです。専門学校行ってからも『俺、和食に進むか洋食に進むか悩んでる』とか『板前とシェフだと帽子が違うじゃない。どっちが似合うと思う?』とか可愛いこと聞いてきたりね。

私も『そうね。あなたはガタイがいいしシェフっぽいから、洋食じゃない?』なんて言って、それが理由なのかはわからないんですけど、結局洋食の道に進んだんです。

で、就職してからすぐの時に『レストランに来てほしい』って言って、招いてくれたんですよ。そのお店で『この人がいたから、俺は今この道に進むことができたんだ』みたいな紹介をしてくれて、美味しい料理を振る舞ってくれて。

もう本当に感動ですよね。あの子のことはずっと忘れないし、生徒たちに語り継いでますけど、そんな子がいました。

【菊澤さん】
すごい! なんか泣ける。チャットにもめっちゃリアクションが!

【望月さん】
泣く泣くマーク! これ、いいですね。

【菊澤さん】
ね、いいですね。すごい嬉しい。なんかいっぱい上がってます。
ちなみに、卒業までにめっちゃかかった子で、何年ぐらいとかあったりするんですか。

【望月さん】
えっと、全日制も通信制も含めて、基本的には最大で6年間しか在籍できないんですよ。 

【菊澤さん】
あー、そういうのがあるんや。

【望月さん】
そうなんです。でも6年かかった子はいないかな。『教育アカデミー』では3年間での卒業率っていうのを大事にしてるので、ほぼ3年で卒業していきます。

でも、ゆっくりペースでやりたいっていう子もいて、トータル4年半ぐらいかけて、ゆっくりじっくり卒業していく子も中にはいます。

もちろん本人の意思を尊重してるので、そういうペースでやりたいっていう子には、4年半分のカリキュラムを組んでます。

【菊澤さん】
オーダーメイドですよね、まさに。

今じゃなくてもいい

【菊澤さん】
この対談イベントのタイトルは『学校に行かない生き方』って言うんですけど、今動き出せない子とか悩んでる若者に望月さんから『これだけは伝えたい』ってこと、何かありますか?

【望月さん】
そうですね。学校に行ってない子ほど『高卒資格取った方がいいのかな』って悩んでると思うんですけど、高卒資格って今すぐ必要なものかって言われると微妙で、どのタイミングで必要になるかわからないものではあるんです。

私としては、何かやりたいって思ったことができた時に、その道に進むためのパスポートになるので、やっぱり取っておいて損はないと思うんですよ。

通信制に来る子って、本当は全日制に行きたかったのに家庭の事情で行けない、みたいに色んな子がいますけど、学校以外にもう1つ軸を持ちやすいというのが通信制の強みだと考えています。

アルバイトや就労体験と両立させやすいですし、将来働くっていうことにも繋がりやすくなりますから、私はそういう2本立てでみなさんにおすすめしてるんですけどね。

もちろん学校が全てじゃないけども、自分が『今だ!』って思った時に、立ち上がれるような準備はしておけるといいかなって思います。

ただ、中学3年生で『高校どうしよう』って悩んでる方もいますけど、私たちとしては『今じゃなくてもいいんじゃないですか』って伝える場合もあるんですね。

やりたいって思った時、いつでも始められるのが通信制の1番のメリットなんだから、何もそんな焦ってね、『みんなが行くから』なんてタイミングで、無理して立ち上がろうとしなくてもよくて、自分が行きたい・自分でやりたいと思う時が来るまでじっくり待てばいいんだよって。

親御さんからしてみればそうもいかないと感じることはあるでしょうけど、やっぱりさなぎから羽化する時期はそれぞれ違うように、出てきたいっていうタイミングで出てくればいいんだよって、そう伝えたいですね。

終わりに

この他にも、望月さんが高校時代に抱えていた生きづらさや『教育アカデミー』が行っている就労への取り組み、大人と子どもの関係性や距離感の難しさなど、ピックアップしたいテーマが目白押しでした。

様々な課題を抱える『教育』という領域。望月さんと『教育アカデミー』が形作る道を、多くの若者が希望を持って歩んでいけることを願っています。

編集部

K2インターナショナルグループから放たれた現代社会への刺客。書類上は七人で構成されていることになっているが、実態は謎に包まれている。組織のモットーは『節度ある暴走機関車』。