学校に行かない生き方
2023年11月6日

【イベントレポート】9/21 史代の部屋~番外編~

編集部

今回は『学校へ行かない生き方』の派生シリーズとして、司会を務める菊澤さんのスペース『史代の部屋』に蓜島一匡(はいじま かずまさ)さんをゲストとしてお招きしました。

『止まれない漢』、蓜島さんの生き方を中心に、配信のハイライトをお届けします。

自分の仕事が日本を空洞化させてるのでは

【菊澤さん】
大学卒業後水産商社に入られて、お仕事で日本各地や世界各国あちこち回られてたのが、フードバンクやそれを主とするNPOに移るきっかけとか、何かあるんですか?

【蓜島さん】
そうですね。僕は商社にいる時は営業部門だったんですけど、成績はまあまあ良かったんです。

営業マンってほぼほぼ営業成績しか見られないから、同期はもちろん、上3年と下3年ぐらい見ても結構やれるぞ、と。

上司に恵まれていいお客さんをもらったのでそれができたのはあるんですけど、『この会社だったらそこそこ行けるな』と思ったし、やっぱり成績があると楽しいんですよ。

【菊澤さん】
あー、成績あるとね!

【蓜島さん】
もうあちこち出張行くためにそのエリアで仕事を作ったりとか、中国とかタイに仕事行きたかったから一生懸命仕事して数字上げて、うるさいこと言われないよう成果を上げること自体が楽しかった。

それで日本中の漁港とか加工場とか、好きなところに行かしてもらって、本当に天職に近かったなと思ったんですけど、やっぱりやればやるほど、日本の水産業の行き詰まりを感じたんですね。

水産業って、商品の価格が合わなくなると労働賃金が安い海外に拠点を移さざるを得ないんですけど、今まで付き合ってた日本の工場を相手にどうにか話をまとめなきゃいけない。

それで、散々仕事で付き合いがあって仲良かった経営者のところに、『もう価格合わないからちょっと下げてくれ』って、そんなに価格を下げてたら大変だってことはこちらも知ってるんだけど、ダメだったら『じゃあ中国の方で加工しましょうか』っていう風にやる立場だったんで、なんか日本を空洞化させてるな、みたいに感じるようになった。

で、そこからですね、日本の『食』に強い関心が向いて、水産は商社で一通り見てきたので、次は農業分野にちょっと関わりたいなと思って、会社を29でやめて、フードバンクの活動に関わり始めたって感じですね。

オーナーシップ

【菊澤さん】
じゃあ、ちょっと規模が大きい質問かもしれないですけど、 働くっていうのは、今の蓜島さんにとってどういうものですか?

【蓜島さん】
あー、いい質問っすね。

今の自分にとっては、やっぱり自分が実現したい社会とか物事に対して、仕事を通して関わっていきたいと思ってます。

単にお金を稼ぐっていうだけの仕事ではなくて、自分の関わった仕事が自分が望む社会の変化につながるようなもの、ということを基本にして仕事してますね。

【菊澤さん】
うん。

【蓜島さん】
だから今は農業分野の手助けをしたいという気持ちが自分の中にあるので、その仕事をしてるってことですね。

【菊澤さん】
自分が働く上で、これだけは大切にしてることとかってありますか?

【蓜島さん】
そうですね。その仕事に意味があるかないか、そしてそれを誰が決めるかなんて正直わからないけど、自分は意味があってやるという姿勢でいるし、逆に自分が意味があると思えないんだったら、僕はその仕事をしない。

例えば新しいプロジェクトの話が来た時に、自分がしっかりコミットしたいという内容だったら引き受けるけども、『これは別に僕の得意分野ではないし、自分がやったとしても成果が出せると思えない』、そう感じたら例えいい金額をもらえたとしても引き受けない。

【菊澤さん】
蓜島さんの場合、おそらく上に立ってまとめ役として、いろんな方々と働くと思うんですけど、一緒に働く方々にそういうことは伝えていったりするんですか?

【蓜島さん】
そうですね、まあ・・・一緒に働く人は正直選びますよね。

【菊澤さん】
うんうん。

【蓜島さん】
僕も普段は自分の会社1人でやってますけど、せっかくその時その時のプロジェクトでいろんな会社の人たちと5人とか10人のチームを組むわけですから、その人たちとの関係性は本当に大事。そこが信頼できなければ一緒に仕事やる価値はあんまりないなと僕は思ってるので。

お客さんやクライアントさんも関係性を大事にしてくれる方々なので、僕らが偉いからこんなことしましょうって話じゃなくて、やっぱり目指したいビジョンが一致してて、一緒に仕事できるかってところが大事なポイントかなと思ってますけどね、うん。

【菊澤さん】
私たちK2の仕事もね、NPOとか株式会社とかもあったりとかもしますけど、 いいことしてると思ってるだけやと続かないし、人の役に立ちたいって思うだけでも潰れていっちゃう。

今NPOで働いてたり、こういう仕事をしたいっていう子たちもそうですけど、自分の想いとか目指すものがあって、自分がやってることの意味をちゃんと自分が分かってるって大事だなっていうのはすごい思います。

稼げるか稼げないかっつったら、色々あると思うんですけど、自分がやってるこの仕事には意味があるって思えるのはすごい大事だなって、今話を聞いてて思いました。

【蓜島さん】
そうですね。『自分が自分のオーナーで、自分をコントロールする人である』ってことをオーナーシップって言うんですけど、それに近いと思います。

誰に何を言われようが、自分自身が『これは価値があるものだ』と思ってやってるかで、全然意味が変わってくると思うし。

同じような作業や業務をしてても、『もっと先に進みたい』と思ってる人と『だるいな』と思ってやってる人はその時の成果も、その後の成長も違うので、大事にするところだと思いますね。

【菊澤さん】
自分自身のオーナーになるって素敵な考えですよね。本当に自分のことをコントロールできるのってやっぱり自分しかいないから、自分の考え方とか想いが自分の生き方に反映されるんだなって、すごい思います。

そこに意義があるかどうか

【菊澤さん】
色々お話を聞いてて、蓜島さんは自分の良い所や強さ、自分の得意・不得意をすごいわかってらっしゃるんだなっていう感じがするんですけど、 そういうのを意識した時期があったんですか?

【蓜島さん】
そうですね、大きくは2つあるかなと思ってて、1つは高校の時に『自分はバスケができる方だ』と思ってたけど、いざ強豪と言われるバスケ部に入ってみたら全然ついていけなかったっていうところがあって。

そういう自分の力が及ばない中でもやれるポジション、自分が得意なとこは何かってことを考えて、組織で貢献できる部分や自分の価値を出せるとこを見つけていく、っていう経緯があったかなと思います。

あとは20代の頃はやっぱりね、自分が仕事を何のためにしてるのか、何のために社会にいるのかってことを結構考えてた。

それこそ組織にいる時も、1つ1つの業務がどこに繋がるんだとか、これは自分の満足にすぎないんじゃないだろうか、誰かのためになってるんだろうかとかね。社会に対して長い時間軸でちゃんと意義がある仕事なのかっていうのは、常々気になってましたね。

そういう意味では価値があるないっていうよりは、そこに意義があるかどうかってのは、いつも考えてたかなと思うのはあります。

その中で自分の強さ・弱さっていうものを考えた時、僕自身は好奇心は結構強いけど、その代わりに飽きっぽいんです。

【菊澤さん】
大体区切りが4年ですもんね。

【蓜島さん】
そう。基本4年くらいすると、慣れてきたなって飽きてきちゃう。自分は0から1を作るってことに長けてるけども、安定した業務に関して言うと『これは僕じゃなくてもいけるな』と。

【菊澤さん】
はいはい。

【蓜島さん】
一旦流れができればね、それを維持するのが得意な人がいるってのは知ってるので。

僕、領収書とかを後から打ち込んで帳尻を合わせるとか、会社の事務作業全般がめんどくさくてしょうがないですもん。

でもそういう書類の山をピッと見て、『これなら1時間で終わりますよ』って人もいるわけだから、『じゃお金払いますから、どうぞお願いします』って頼んじゃう。

こういうのって後から気づいてくるものですけど、自分はやっぱり新しいものを作るとか、困難な状況を整えていくみたいな方が多分好きだし得意なので、そちらに時間を使いたい。

【菊澤さん】
うんうん。

【蓜島さん】
多分みんなそれぞれ、自分が能動的に振る舞える分野や積極的に動ける状況っていうのを持ってると思うんですよね。

僕は外に出ていろんな機会をもらって、人と人の事情がぶつかり合うところに入って、それを整えてくのが好きで得意だったということに途中で気づけたので、 そこが違いというか大きなターニングポイントでしたね。

【菊澤さん】
今もそういう自分の弱いところとかできないところとかを口に出して伝えてくださるけど、そういうの昔からできました?

【蓜島さん】
そうですねー、どうだろうな。比較的良好な人間関係を築けてる人たちとはできたかな。僕はこっちやるんで、こっちお願いしますねっていって、お互い補完し合うみたいに。

ただ僕がどんどん先に進んでやりすぎちゃうと、スタッフたちがついてくるのが大変で、組織が崩壊しかけたことは何度もありますね。

どんな状況にあっても、自分が取る態度だけは、自分が決められる

【菊澤さん】
この前蓜島さんと色々お話させていただいた時に、言葉をすごい大切にされてるなっていうイメージがあって、蓜島さんの印象に残ってる言葉とか文章とかあったら、教えていただきたいなと思うんですけど。

【蓜島さん】
そうですね。自分が悶々としてたというか、20代の頃に自分がどういう方向に行くのかなと迷ってた時、僕が特に大事にしてたのは『自分の感受性ぐらい』っていう詩でしたね。

茨木のり子さんっていう方が書かれた詩なんですけど、簡単に言うと人や社会のせいにせず、自分の感性は自分でしっかり守れというメッセージで、最後に『自分の感受性ぐらい 自分で守れ ばかものよ』っていう一文があるんですけど、その言葉を軸に自己問答してた感じはありますよね。

『なんでこういう立場になれないんだろうか』とか『なんでここうまくいかないんだろうか』みたいな時に、状況とか環境を整理する場面が多かったなと。

今はこんな風にエネルギーある感じで話してますけども、『本当はもっとこんな風になったはずなのにな』って思いながら強がってた時期があるわけですよ。

そういう悶々とした環境で、自分のご機嫌は自分で取るとか、さっきのオーナーシップみたいなことを意識してたかなと思いますね。

【菊澤さん】
今の詩、チャットとかに出たらぜひ読んでいただきたいなと思うんですけど。

『自分の感受性くらい』全文はこちら

うちのスタッフだったりとか、今うまく進めてないなっていう若者もそうだと思うんですけど、自分の取り巻く環境を他人だけのせいにして、今の自分から目を背けられると、ちょっと気分が楽になる時もある。

でも心のどこかではこれじゃいけないってわかってて、この詩はすごい現実を突きつけられるけど、やっぱり大事なことだなって思います。

【蓜島さん】
そうですね。ドイツの哲学者であるフランクルさんの言葉に、

あらゆるものを奪われた人間に残された、たった一つのもの、それは与えられた運命に対して自分の態度を選ぶ自由、自分のあり方を決める自由である

っていうのがあって、この人はナチス時代に強制収容所にいてすごく困難な状況だったんですけど、『態度価値』という概念を提唱したんですね。どんな状況にあっても自分が取る態度だけは自分で決められる、っていう。

日本でも東日本大震災の時に、 自分の親族だったりとかお子さんを亡くされた方がいらっしゃった中で、『それでも前に進むかどうか』って自分しか決められないんですよね。

打ちひしがれることもあるかもしんないですけど、その状況をどう取るか、そういう状況に対してどういう態度でいるかっていうの自分次第だなと思ってるので。

商社を辞めてフードバンクの活動に関わろうした時も、自分の人生に対して本当にこの態度でいいんだろうかと、もっと他にやれることあるんじゃないかとかそういう葛藤がありました。

一方、そういう選択肢があること自体、僕は結構恵まれてるな、とも思いましたね。

正直お金に困ってるわけじゃないし、両親は元気だし、いざとなったら実家暮らし・・・まあ『30前で実家暮らしかよ』とか思うところもありましたけど、非営利組織にチャレンジできる後ろ盾もあり、体も元気だったから『これがダメでもなんとかなるだろう』っていう楽観的な気持ちもあったんで飛び込めた。

だからこそ、そういう環境を選択できるかどうかはすごい大事で、フードバンクを通して様々な支援に関わるうちに、選択できない人がたくさんいるのもわかりました。

【菊澤さん】
はい。

【蓜島さん】
選択する機会に恵まれなかった困難な人たち、例えば障害を持ったり自由意志で動けないような人をたくさん目の当たりにした中で、少なくとも5体は満足だし、『自分には選択できる環境があった』ってことは結構大きな気付きだったなと思いますね。

終わりに

この他にも、バスケの強豪校に入学して感じた初めての挫折や、自分の勉強に対する姿勢や適性を意識した浪人生活や大学生活、フードバンクに本格的に関わるようになったある寒い日の出来事など、人生のヒントになるようなエピソードを語ってくださいました。

自らの信念に従ってマグロのごとく前へ進み続ける蓜島さん。その先に切り開かれる未来に輝きがあることを祈っています。

編集部

K2インターナショナルグループから放たれた現代社会への刺客。書類上は七人で構成されていることになっているが、実態は謎に包まれている。組織のモットーは『節度ある暴走機関車』。