【続・狂気】『1万円で十分』と言いながら有線16本。ガチ勢ゲーマーが沈んだ“イヤホン沼”。
前編では、マウス、キーボード、ガラス製マウスパッドへと続く、タケさんの深いデバイス探求を紹介した。最後に残されたのは、敵の位置を聞き分けるための「音」。予告どおり、今回は前編の続編となる“イヤホン沼編”をお届けする。
登場人物
マッシャー:インタビュアー
タケ:K2歴15年。中学2年の夏休みから学校へ行かなくなり、19歳でK2につながる。海外生活を経て、現在はコッペパンハウス「パン屋のオヤジ」のスタッフ。趣味はゲームとデバイス探求。

入口はBeats。最初に刺さったのは『音』より見た目
マッシャー(以下マ):そもそも、イヤホンを集めるようになった入口は何だったんですか?
タケ:小さい頃は父親が買ってきたSONYのヘッドホンを使っていて、音へのこだわりはなかったです。イヤホンをちゃんと使い始めたのは、シドニーに行ってからですね。
マ:最初から高級イヤホンへ行ったわけではない。
タケ:そうですね。入口はBeatsだったと思います。当時はスポーツ選手も使っていて、とにかく見た目が格好よかった。低音が強い音も好きでしたけど、どちらかというとビジュアルから入りました。
マ:その後、ゲームを始めてヘッドセットへ?
タケ:最初はマイク一体型のヘッドセットでした。でも長時間だと重さや側圧が気になる。プロゲーマーが有線イヤホンを使っているのも見て、またイヤホンへ戻ってきた感じです。オフライン大会では、イヤホンの上から遮音用のヘッドセットを着ける場面もあります。
マ:画面ではヘッドセットに見えても、中で鳴っているのはイヤホンという場合があるんですね。
気づけば有線だけで約16本。ACGと“パケ買い”の世界
マ:そこから、どうしてここまで本数が増えたんですか?
タケ:中華イヤホンですね。ACG、つまりアニメ、コミック、ゲームの文化を前面に出した製品があって、箱にキャラクターが描かれている。いわゆる“パケ買い”です。
マ:見た目だけで買うこともある?
タケ:あります。イヤホンも一種のファッションだと思っているので。好きなものを使うと気分が上がるし、コレクションとしての面白さもあります。
マ:今、有線イヤホンは何本くらい?
タケ:数えてみると、たぶん16本くらいです。そのうちMOONDROP(水月雨)だけで10本前後。自分は女性ボーカルやJ-POP、J-ROCKをよく聴くので、あのメーカーの音の方向性が好みなんですよね。
最初の一本はMOONDROP CHU
タケ:最初の方に買ったのが、MOONDROPのCHUです。当時2,000〜3,000円くらいの入門機でした。安いのに金属の筐体で、持ったときの質感がしっかりしている。初心者向けとして面白いイヤホンでした。
マ:安いイヤホンほど軽い樹脂製、というイメージがありました。
タケ:素材は好みですけど、金属は所有感があります。音だけでなく、箱、筐体、付属品まで含めて楽しむ。それがこの世界なんだと思います。
マニアなのに断言。『1万円以内で大抵は満足できる』
マ:本数を持っている人ほど、高いほど音が良いと言いそうですが。
タケ:自分は逆です。100円ショップのイヤホンから入門機へ替えたら、違いは分かりやすい。でも、そこから1万円、2万円と上げたとき、値段と同じ割合で音が良くなるわけではない。有線なら1万円以内で、大抵の人は満足できると思います。
マ:では、その先にある高級機は?
タケ:自分が聴きたい音が明確になった人の領域ですね。低音、高音、ボーカルの距離、音の広がり。欲しいものが分かってから選ぶ。その先に果てがないから“沼”なんです。
マ:ケーブルを替える“リケーブル”もありますよね。
タケ:自分は500円のケーブルと、元値1万円のケーブルを比べましたけど、音の違いは分からなかったです。自分にとって大事だったのは、音より柔らかさ、長さ、着け心地でした。硬いケーブルは外で使いづらい。
マ:イヤーピースはどうですか?
タケ:耳に直接触れる部分なので、穴の広さ、長さ、素材、密閉具合で変化を感じやすいです。まず本体、その次にイヤーピース。ケーブルは壊れていないことと着け心地の方が、自分には重要ですね。
※価格と音の感じ方は、タケさん個人の使用環境と聴感に基づくものです。聴こえ方や必要な出力は、機器と耳の状態によって異なります。
イヤホンジャックの先にある、DACという別の沼
マ:机の上にある小さな機械は何ですか?
タケ:DACです。デジタル・アナログ・コンバーター。スマホやパソコンのデジタル信号を、イヤホンで鳴らせるアナログ信号へ変換する機械です。最近はイヤホンジャックがないスマホも多いので、USB-Cにつなぐ小型のドングルDACもあります。
マ:iPhoneの変換アダプターも、広い意味では同じ役割?
タケ:そうです。小さくても変換はしています。自分は外ではドングル型、パソコンでは据え置き型を使っています。
マ:据え置き型にする理由は?
タケ:パソコンから直接つなぐよりノイズを避けやすく、必要な出力も取りやすいからです。自分の据え置き機は5万円くらい。ここから先へ行くと、また底が見えなくなるので、今の環境を“エンドゲーム”にしています。
マ:本体、イヤーピース、ケーブル、DAC。入口が四つもある。
タケ:しかも、それぞれに沼があります(笑)。
未開封4本を一気に開封。“痛イヤホン”の実物
この日、タケさんは買ったまま開けていなかったCVJの有線イヤホン4本を用意していた。キャラクターを前面に出した箱とフェイスプレートは、いわば“痛車”のイヤホン版。音を聴く前から、開封体験が始まっている。
① CVJ Night Elf

マ:一発目から、かなり“痛い”ですね。耳の外側にこの絵が来る?
タケ:そうです。当時は『すごいのが出た』と思いました。自分はセールで3,000円くらい。ケースも付いていて、フェイスプレート以外は黒い筐体です。
マ:絵が苦手な人には、かなり勇気が必要そうです。
タケ:後から絵柄のない仕様も出ています。でも自分は、あえてこの見た目が欲しかった。そこがパケ買いなので。
② CVJ Neko

マ:Night Elfと比べると、絵に立体感があります。
タケ:フェイスプレートの作り方が違うんだと思います。表面へ印刷しただけというより、金属の中に絵が入っているように見える。こういう筐体の技術にお金を払っている感じがありますね。
マ:音を聴く道具なのに、まず製造技術の観察が始まる。
タケ:そこも含めて楽しいんですよ。付属のキャラクターキーホルダーも入っています。
③ CVJ Vivian

マ:3本目はVivian。これは絵柄で選んだ?
タケ:この絵柄が好きで買いました。4本の中では安い方で、元の価格も3,000円台だったと思います。筐体の基本形はNight Elfに近いけど、大きさや中のドライバーは違います。
マ:同じメーカーのシリーズを並べると、進化や共通点まで見えてきますね。
④ CVJ NOZOMI

マ:最後は箱の大きさからして違う。
タケ:今日のメインです。観音開きの箱で、アクリルスタンド、缶バッジ、ケース、イヤーピース、交換用ノズルまで入っています。自分が買った初回分には、さらにクッションやマウスパッドなどの特典も付きました。

マ:キャラクターの板が外れた。普通のイヤホンにもできますね。
タケ:そうなんです。“痛イヤホン”にも、普通のイヤホンにもできる。フェイスプレートは磁石で付きます。ノズルも交換できて、3.5mmと4.4mmのプラグも使い分けられる。最近は音だけでなく、見た目、開封体験、付属品まで全部盛りにして差を出しているんだと思います。
マ:イヤホンを買ったというより、一つの作品を開けている感じがあります。
約3,000円対約27,000円。素人の耳でも違いは分かるのか

タケ:せっかくなので、入門機のCHUと、約27,000円のKADENZを同じ曲で聴き比べてみてください。
マ:まずCHU。普通に聴きやすい。これだけで困る感じはしません。

マ:次がKADENZ。音が少し遠くまで広がるというか、ボーカルの余韻が長い。こっちの方がクリアで聴きやすい気はします。
タケ:違いはあります。でも約9倍の値段だから、9倍良いと感じるわけではない。入門機で十分という人が多いのも分かりますよね。
マ:価格を知らず、予算も無視するなら高い方。でも現実にはCHUでも十分。沼の入口がよく分かりました。
タケ:その“少しの違い”に、いくら払えるかなんですよ。そこから先は完全に趣味です。
FPSでは『良い音』より、足音を拾う音
マ:ゲームでは、やはり高いイヤホンが有利ですか?
タケ:値段だけでは決まりません。自分はAPEXをやっていた頃、イコライザーで足音の帯域を持ち上げていました。音楽として自然かどうかより、必要な音が聞こえるかが大事です。
マ:実際に設定を切り替えると、足音が少し前へ出てきますね。
タケ:ただ、全部の音に同じ設定がかかるので、ボイスチャットの声まで変わります。ゲームごとに調整するのも面倒で、今はそこまでやっていません。
マ:勝つために詰めすぎると、遊ぶこと自体がしんどくなる。
タケ:そうです。自分はエンジョイ勢なので、適度に遊ぶくらいがいいです。イヤホンも同じで、ほどほどに楽しむのが一番です。
自分の外側の音ではなく、自分で選んだ音を聴く
タケ:自分は聴覚過敏気味かもしれないんですよね。運動会やお祭りのスピーカーみたいな大きな音、特にお腹まで揺れる低音が苦手で。爆音の場所はしんどかったです。
マ:それも、イヤホンを好む理由の一つかもしれない?
タケ:もしかしたら、そうかもしれません。今話していて気づきました。
これは診断名の話ではなく、タケさん自身が取材中に気づいた感覚の話だ。外から一方的に押し寄せる大きな音は苦手でも、自分で選び、調整した音なら楽しめる。16本のイヤホンは、単なる収集品ではなく、自分に合う音と距離を探した足跡でもある。
前編で求めていたのは、マウス、キーボード、マウスパッドの「不変」と「最速」だった。イヤホン編で見えてきたのは、必ずしも最高価格ではない。自分が好きな見た目で、自分が必要な音を、自分が疲れない形で聴くこと。それがタケさんにとっての、今の到達点らしい。
※製品名と基本仕様は、取材写真に加え、MOONDROP公式サイトおよびCVJ公式サイトで2026年7月29日に確認しました。価格は特記のない限り、タケさんの購入時または取材時の記憶に基づく概算です。
