言葉の処方箋~力を貰える名言~(※効果には個人差があります)第2回
(About us|株式会社Deportare Partnersより引用)
「成功者の言葉しか世の中には残らないから『やればできる』が格言になる」
ー為末 大 氏
死人に口がないからって死体の数が減るわけではない
突然ですが『生存バイアス』って言葉、ご存知でしょうか?
検索してみると以下のような説明がトップに出てきます。
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生存バイアス(または生存者バイアス)とは、認識や思考の偏りを意味する認知バイアスの1種。 認知心理学の用語であり、失敗した対象を見ずに、成功した(≒生存した)対象のみを基準に判断をしてしまうこと。 よく語られる例として、ウォールドによる第二次世界大戦中の戦闘用飛行機の分析例が挙げられる。
(MBA用語集『生存バイアス』より引用)
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これだとちょっと説明が固すぎるので、もうちょっと砕けた表現をするなら、
「勉強なんかしなくて大丈夫。授業中ほとんど寝てたけど赤点なんかとったことない」
→授業中寝ていた他のクラスメイトは全員赤点。
「防災訓練なんて必要ないよ。いざとなればみんな真面目に動くって」
→災害時の避難中に怪我人続出、無傷なのは本人のみ。
「練習がきついのは当たり前。今いる野球部の先輩全員がそうやって成長してきた」
→去年の新入部員20人に対して残ったのは4人、なお入部希望者は毎年減少中。
みたいな状況に対するツッコミが『生存バイアス』だと考えてもらえれば、概ね合っていると思います。
つまり『やればできる』と言い放つ人に対して、『今回はたまたま上手く行っただけ』『なんとかなったのはあんただけ』『このままだと全滅が目に見えてる』という戒めに近いニュアンスが含まれているわけです。
んが、使い方によっては「~だから仕方ない」という行動しない言い訳を自分に与えてしまう可能性が常にあって、恐ろしい言葉でもあると思うんですよ。
努力するなよ! 絶対努力するなよ!
仕事でも遊びでも運動でも勉強でも、やればできた人の裏には『やってもできなかった人』が無数にいます。
「俺と違ってお前は家庭環境がいいから合格出来たんだ!」とか、
「私と違ってあなたは容姿がいいから面接に通ったのよ!」とか、
誰にでも一つや二つ『失敗したのは自分のせいじゃない』ことにしたい場面があるものですけど、生存バイアスってこういう時の理由付けにぴったりなんですよね。
(もちろん『持っているモノの差』で結果が決まる場合もありますけど)
生まれや育ち、運や縁みたいなコントロールできない要素も含めて、『上手く行っていない現実を認める』って、人によってはめっちゃ辛いじゃないですか。
特に学校や仕事をサボったりせず、犯罪に手を染めたわけでもない、自分なりに我慢と努力を積み重ねてきた人が「何か悪いことしたわけでもないのに、なんでこんな報われないんだ・・・」みたいな絶望感に囚われるのは、率直に言ってわかりみしかない。
だからこれまで自分が挑戦してきたことを『頑張れば誰でも出来ること』ではなく、『誰もが上手く行くわけじゃないこと』にしておきたい誘惑にはやっぱり抗いがたいんですよ。
でも『生存バイアス』を根拠に、「自分は何もできない駄目人間だから仕方ない」って状態が長引くと、やらない理由探しばかりが得意になるので、いずれ本当に何もできなくなっちゃいます。
ド正論なのが実に癪なんですけど、どこかのタイミングで「今手元にあるモノで闘うしかないんだ」って認めて、渋々行動するしかないわけです。
帰って寝る、今日はしんどい
「いやそうは言っても現実問題格差はあるし、頑張った所で結果が出るとは限らないよね」って、思う方!
はい、仰る通りです。最終的にやるかやらないかを決めるのは本人なので、無理なものは無理なんですよね。
これは為末さんの『モチベーションの扱い方』に関する言葉を知ると、よりしっくりくると思います。
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やる気を出す、という言葉の矛盾をいつも感じていた。
やる気は出るもので出せるものではなく、例えるなら今置かれている状況を無視して幸せになろうとする事に似ていた。
みんな幸せを手に入れる為に条件を揃える事には熱心なのに、モチベーションを出すときは直接自分の心に手を突っ込む。
モチベーションも無理をすれば壊れる。
そうすれば全てにやる意味を感じられなくなる。
モチベーションは無邪気な子供のようで、いくら言っても思う通りにはならない。
そして叱り責め続ければ心を閉ざしてしまう。
自分のモチベーションの癖を理解し、上手に外的環境で誘導するしかアプローチの手段は無い。
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人ってやる気がなくなりすぎると、『飯・風呂・寝る』ですら億劫なくらい全方位で何もできなくなっちゃうんです。
だからそうなる前に手を打つのが理想なんですけど、心って目に見えませんし、「それができれば苦労はしねェ!!!」と嘆きたくなるくらい難しいことでもあります。
じゃあどうしたらいいかと言えば、『ハマれることを増やす』のが一番合理的だと思うんですよ。
生きてる甲斐がねえんだよ――――っ!!
実は冒頭の言葉には続きがあります。
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成功者の言葉しか世の中には残らないから『やればできる』が格言になる。
夢は叶わないかもしれない。
叶える為の努力は無駄に終わるかもしれない。
でも何かに向かっていたその日々を君は確かに輝いて生きていたのではないか。
それが報酬だと思わないか。
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一日中映画館に入り浸っていたり、一晩中ゲームをやってたり、食事中も小説や漫画を手放せなかったり、入浴中にずっと同じ曲を聞いていたり。
『無駄がない生き方』なんてものがもしあるとしたら、そういう余計なことは一切しない毎日になってしまいますが、実際にそこまでストイックな生活を送っている人はめったにいないはず。
大抵の人はやっぱり何かしらにハマっちゃって、しかもそれに飽きた時「なんであんなお金にならないことをしてたんだろう」「もっといい時間の使い方があったんじゃないか」って虚しくなったりするのがお約束なわけで。
(最近は『趣味が高じてお仕事に』ってパターンも増えてるかもしれませんが)
何事もドハマリしすぎると依存症やセルフネグレクトにつながる恐れもありますから、ある程度の自制やコントロールは必要です。
一方で、何かにハマってる時ってそれをやること自体が報酬だから、モチベーションが無限じゃないですか。
輝いて生きる、という表現はさすがにキラキラしすぎかもしれませんが、
「ゲームを気兼ねなくできるよう成績は維持する」とか、
「推しに躊躇なく貢げるよう安定した仕事に就く」とか、
『やりたいことのためのやりたくないこと』をこなすパワーやエネルギーは、夢中になれる対象があった方が維持しやすいんですよね。
まして、夢中になる対象を1つに限る必要はありません。
1つくらいなくなってもどうってことないほど、たくさんのことに夢中になれれば、夢は叶わなくても『夢見る人生』は手に入る。
人生に無駄だったと感じる瞬間はあっても、その無駄が生きる力になると思わせてくれる名言でした。
処方箋、お出ししておきます。