元大手国際線航空会社CA・YUIさんに聞く“人を見る”仕事の原点
■ K2でも屈指のユニークな経歴をもつYUIさん。その前職は…!?
いつもびしっと背筋を伸ばし、颯爽と業務をこなしているYUIさん。
K2で一緒に働くようになって、もう10年以上になります。
現場では誰よりも落ち着いていて、四隅をきっちりと抑える仕事ぶり。
迷ったときには「YUIさんに聞いてみよう!」と思うような存在です。
そんなYUIさん、実は元大手国際線航空会社の客室乗務員。しかもそのキャリアは35年。
1975年入社、まだ航空会社が半官半民だった時代から、民営化、そしてあの大きな墜落事故、 さらに航空業界の変化まですべてを見てきた方です。
そもそも同じ会社に35年も勤めた人というだけでもすごすぎるのに、
その後、まったく異業種であるK2で働いているという異色の経歴。
今回は、その長いキャリアと、YUIさんの“人を見る仕事”の原点についてお話を伺いました。
本当はもっと踏み込んで聞きたかったのですが、そこは守秘義務があるそうです(笑)。
■ 半官半民の時代に「日本の翼」として働く
KAYA: 入社は1975年だったんですよね。当時はどんな雰囲気だったんですか?
YUI: そうですね。会社がまだ半官半民で、“日本の翼”と呼ばれていた時代です。
今ほど海外旅行も身近ではなく、客層もまったく違いました。
国の行事や外交関係の方をお乗せすることも多く、
客室乗務員はいわば「日本の顔」としての役割もありました。
KAYA: いまよりずっと格式のある仕事だったんですね。
YUI: そういう面もありましたね。
華やかに見える仕事でしたが、その裏では訓練がとても厳しかったんです。
■ 「泣いても笑ってもやるしかなかった」訓練の日々
KAYA: どんな訓練だったのですか?
YUI: 入社後3か月間はびっしりでした。
当たり前のビジネスマナーから始まり、緊急脱出、応急手当、消火、気象学、語学。
それからワインや料理の知識まで。
プールでは救命胴衣をつけてボートに乗ったり、
滑り台を使った脱出訓練もあって、全員が実際に滑るんですよ。
もちろん訓練や講習はその後も定期的にありました。
KAYA: 想像以上ですね。CAって華やかな仕事という印象でしたが…。
YUI: 空の上では、何が起きても逃げ場がないですから。
だからこそ、まず“守る力”を身につけないといけません。
笑顔も大切ですが、お客様の安全が第一。
保安要員としての意識が強く、“お客様をもてなす前に、まず守る”。
その考え方は今も変わっていませんね。
■ 着物でのサービス、“日本”を背負う仕事

KAYA: 写真を見ましたけど、ファーストクラスでは着物でサービスされていたんですよね!
YUI: そうなんです。あの狭いトイレで着替えるんですよ(笑)。
とはいえ、セパレート式の着物で、帯はマジックテープ。
見た目はきちんとした和服ですが、動きやすく工夫されていました。
KAYA: 想像するだけで大変です。
YUI: 慣れればあっという間ですよ(笑)。
外国のお客様からは「本当に着物で接客するんですね」と驚かれました。
“日本らしさ”をまっすぐに伝える仕事だったと思います。
制服も森英恵さんのデザインで、帽子と手袋は必須。
身につけると自然に背筋が伸びましたね。
KAYA: 今も、多少のことではびくともしないくらい、
いつもびしっと背筋が伸びてますけどね!
■ ミニスカートと螺旋階段の時代
YUI: 入社当時の制服、実はミニスカートだったんです。 今見たら笑っちゃうくらいの丈でしたね。時代が時代ですから(笑)。
KAYA: (写真を確認)ほ、ほんとだ~~!短い…!

YUI: ええ。ジャンボ機の2階に上がるのは螺旋階段で、 その下に好んで座るお客様もいらっしゃいました。
KAYA: なるほど…いわゆる“見上げスポット”ですね(苦笑)。
YUI: そうそう。でもCAはそんなのいちいち気にしていられません。
背筋を伸ばして、堂々と上るだけ。 「見たきゃ見なさい、私は仕事中です」っていう感じでした(笑)。
KAYA: 潔いい! まさに“昭和の空を翔ける女たち”。
YUI: あの頃は、スカート丈ひとつにも時代の勢いがありました。
■ ファーストクラスは“静かな社交場”

KAYA: 螺旋階段の上といえば…当時のファーストクラスは特別な空間だったと伺いました。
YUI: そうですね。ジャンボ機の2階が広いラウンジになっていて、今の様な座席ベースとはまったく違いました。 政治家や経済人の方がワインを片手に語り合う、いわば“空の社交場”でしたね。
KAYA: まるで映画のワンシーンのようです。まあ今のファーストクラスも未知の世界ですが…。
YUI: 私たちは常に緊張感がありました。
ファーストクラスを担当するには試験が必要なんです。
ワインやスピリッツ、英語表現、マナーの知識。 そして「お客様に頼まれたら負け」という言葉があって、 お客様が口に出す前に察して動くこと、それが一人前の証でした。
KAYA: なるほど、“察する力”ですね。
YUI: はい。日本的ですが、とても実践的な考え方でした。
観察力や空気を読む力は、今の仕事にもつながっていると思います。
KAYA: ふむふむ(メモ)。
■ 民営化と、職場の変化
KAYA: 1987年の民営化は大きな転換点だったと思いますが。
YUI: そうですね。民営化で競争が始まり、“国の翼”から“企業のサービス”へと変わりました。
効率化が進み、人員が減り、同じ人数で倍の仕事をするようになりました。
KAYA: 大変そうです…。
YUI: でもその分、チームワークは強くなりました。
一人で三人分動くような時代でしたが、 「大丈夫?」と声をかけ合う文化が生まれたのもその頃です。 大変な時代でしたが、当時の同僚との強い絆は今でも忘れません。
■ 「Smile, but with dignity.」――笑顔で、しかし品格を持って
KAYA: 当時の教育で印象に残っている言葉はありますか?
YUI: “Smile, but with dignity.”という言葉です。
品格ある微笑み、という意味なんです。
笑うことは大切ですが、落ち着いて見せることも同じくらい大切でした。
KAYA: その言葉、格好良すぎませんか。YUIさんの微笑みはまさにそれです!
YUI: そうですかね(笑)。
“いつでも冷静でいなさい”という意味でもありました。
笑顔と微笑みは違いますが、どちらもお客様を安心させるためのものですね。
KAYA: なるほど、経験と教えが今のYUIさんをつくっているんですね。
■ 今、K2で若者に向き合って
KAYA: 今はK2で若者の相談や就労支援を担当されていますが、
JAL時代の経験が活きていると感じることはありますか?
YUI: ありますね。CAの時は“先回りして動く”ことが大切でしたが、 今は“先回りしすぎない”ことを意識しています。
相手の様子を見ながら、本人が動き出すのを待つ。
でも結局は、どちらも“人を見る仕事”なんです。
KAYA: 「察する力」は、今の若者支援にも通じますね。
YUI: そう思います。ご相談に来られる方には、言葉にしないサインが多いです。
でも、少しの変化に気づくことで関係が深まる。
“今日はちょっと違うな”って気づけたら、そこから話が始まります。
■ 空を降りても、変わらない視線
KAYA: 今でも飛行機に乗ると、ついCA目線になりますか?
YUI: なります(笑)。つい安全確認をしたくなりますね。
でもそれは悪い癖ではなく、“人を見て動く”という姿勢の表れだと思っています。
KAYA: ファーストクラスの支援ですね!
YUI: そんな大げさなものではありません(笑)。 でも、どんな仕事でも最後は“人”なんです。 空でも地上でも、それは変わらないと思います。
■ 変わらない軸
空の上でも、K2の現場でも。
YUIさんの話には、どの場面にも一貫して「人を見て、動く」という姿勢がありました。
華やかに見える職業の裏で積み重ねてきた経験や判断力は、 いま、若者と向き合う仕事の中にも確かに繋がっています。
YUIさんの話を聞いていると、「人を見る力」がすべての土台にあるのだと感じます。35年間の空の経験を経て、いまも地上で“人”に向き合い続けるYUIさん。そんなプロフェッショナルなYUIさんに、不祥KAYA、これからもついていきたいと思います…!
