芸術の秋特別企画『リア王の悲劇』観劇レポート!
「リア王の悲劇」。実は9月のKAATのこの公演を、K2の若者7人と4人の大人総勢11名で観劇してきちゃいました!
K2の共同生活メンバー4名+韓国からの留学生の若者3名+個性豊かなスタッフ3名で、平日だというのに観光客でごった返している中華街を闊歩して、辿り着いたKANAGAWA ART THEATER、通称KAAT!
KAAT
ちょっとちょっと、よく考えてみると…特に韓国メンバーたちにとって、外国に旅して、その国の劇場で芝居を観るなんて、なかなか素敵な経験じゃないですか?
女子はちょっとドレスアップ。劇場に行くなら、お洒落して、ちょっと気取って楽しむというのも粋なもんです。
KAATメインシーズン『某』の看板が超カッコいいのでその下でパチリ!
『リア王の悲劇』公演概要
KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール内特設会場〉
2024年9月16日(月・祝)-10月3日(木)
「リア王の悲劇」
原作:シェイクスピア
翻訳:河合祥一郎 演出:藤田俊太郎
戯曲・演出について
「リア王」。シェイクスピア四大悲劇のひとつ。舞台は3~5世紀のブリテン。
本公演はシェイクスピアの改訂版であるフォーリオ版と呼ばれる「リア王の悲劇」。この脚本で上演されるのは日本初の取組。
演出の藤田氏は、蜷川幸雄氏の元で修行した新進気鋭の監督。ストレートプレイからミュージカルまで幅広く手掛け、今若手で観客を最も集める演出家の一人と言われています。
【あらすじ】(プログラムより抜粋)
「老いにより国王として退位を決意したリア(木場克己)は、国を3つに分け、3人の娘の内自分を最も愛するものに財産を多く分けようとする。きれいごとを並べる長女のゴネリル(水夏希)と次女リーガン(森尾舞)たちと異なり、三女のコーディーリア(原田真駒)は虚飾のない率直な父への思いを述べるが、リアは激怒し、コーディーリアを勘当する。
リアを止めようとしたケント伯爵(石母田史朗)も追放される。
姉たちは誰よりも父を愛すると言っていたにもかかわらず、その後のリアの横暴な振る舞いに耐えかねて、リアを嵐の荒野へと追い出してしまう。
一方、リアの家臣・グロスター伯爵(伊原剛志)の私生児エドマンド(章平)は跡継ぎになれないことを恨み、嫡子エドガー(土井ケイト)と父を騙して出世を狙う。エドマンドの策略にはまったエドガーは狂人に扮して逃げ回り、リアを密に救おうと荒野に向かったグロスター伯爵はエドマンドの密告により裏切り者として両目をつぶされてしまう。
フランス王に嫁いだコーディーリアはリアを救うために軍を率いてくるが、ブリテン軍との戦いに敗北し…。リアやそれぞれの登場人物たちの行く果ては。そして、リアが裏切りの失意に嵐を彷徨い、狂乱の果てに自身と向き合いみつけたものとは――」
【miwa的観劇レポート】
さてさて、観劇レポート。ストレートプレイを見るのは、2年ぶりかな。KAATの「バッコスの信女―ホルスタインの雌―」だったかも。同じ5階の反対側のスタジオだったと記憶。
あの舞台はエウリピデスの戯曲を模した、新進気鋭の市原佐都子の作品で、性愛、男女、異種混交、差別、虐待、人工授精、精子バンク等々、題材が今!という感じでそれはそれで凄い作品だった。ハラハラドキドキするようなスレスレのシーンがいっぱい。
ちょっと脱線するけど、「バッコスの信女~」の出演者の一人は、湘サポの朗読セミナーの講師で、実はそのご縁から来て頂いているんですよ。これは豆知識。
今回は古典中の古典。シェイクスピアは演出や演じる側の解釈によって全然違って見える表現が、別の意味で楽しみ。
さて、本編。舞台は明転のまま、開始ブザーもなく始まります。
冒頭、赤子を抱いた男性があやしながら舞台を横切るところに、ひとりの老人がやってきます。赤子をしげしげと眺め、見送る老人。そこに道具を携えた数名の人々が近づき、それぞれの道具を老人に次々と手渡します。
渡し方が「ほれ」「え?俺?」「そう、あんただよ。ほら、これも持って」という感じなのが面白い。渡されたのは王冠、杖など、王の持つアイテム。訝しむようにアイテムを受け取った老人は、首を傾げながらも、舞台奥に浮き上がるように出現した王座をつかつかと登っていきます。
老人が玉座を登り切り、マントを翻し振り返った瞬間、そこには傲岸不遜な王が立っていました。
この演出が渋かった。
RPGゲームでアイテムを集めるとランクアップするような含みもあります。
王すら、何者かに踊らされているだけの存在と言いたいかのようです。
老人が愚かな王のように動き出せば、パワハラ上司にお追従笑いをする臣下たち、父に媚びを売る長女ゴネリルと次女リーガンが虚飾に満ちた賛辞を振りまき、虚飾に満ちた宮廷が広がります。そこに乗り切れない、不器用で言葉が足りない末娘コーディーリア。彼女はひとり、字義通りにしか世の中を理解できず、空気の読めない、現代の若者のようにその場に佇みます。
コーディーリアを救済するべく、リアに注進するも、諫言を疎まれ追放される忠臣グロスター。うわべだけの権力や権勢の熱狂に浮かされたように、シナリオは悲劇の種をまき続け、進行します。
「わしの道化はどこだ?」
悲劇の坂を転がり落ちていくリアは、舞台には登場しない道化を探し始めます。
勘当した末の娘と同じ女優が演じる、他の人に見えない生意気な道化を、唯一許し、優しい声で呼ぶのです。
長女と次女は、横暴の極み、家父長制の権化のような父を厭い、力を奪い、荒野に放逐します。
表面的な忠誠や愛情、欺瞞に満ちた家族ゲームは、簡単にメッキが剥がれます。しかしこの姉妹を嘲笑し、なじることが出来ない人も、現世には多いのではないだろうか、と思わせるやりとりがヒヤリとさせます。
第1幕の終わり。娘たちに見放され、嵐の中咆哮し、彷徨うリアたち。世界を覆い隠すような嵐、雷、轟音に続き豪雨が降り注ぎ、乞食のトムが嵐に塗りつぶされるように掻き消え、暗転。
本物の水が大量に使われた豪雨のシーンは圧巻でした。舞台のことを言えば、もう尽きないというか。役者たちの生の声音や、息遣いまで感じられる演技は迫力満点!
第2幕は悲劇に次ぐ悲劇。終末に向けて堕ちるところまで、堕ちていくのですが、とにかく舞台上で人が次々と死んでいきます。終幕は生きている人より、死者のほうが多いのではないかと。
ラストシーンでは、バックライトが残照のように舞台を照らす中、死者たちを残し、途方に暮れたように、舞台の奥へと立ち去っていく生者たち。
残された者たちよりも、死んでいった者たちのほうが幸せなのでは…と暗澹たるラストでした。うーむ、どんなに栄華を極めたとしても、終盤にこれほど残酷な結末が待っている人生というものもあるものだ…。
リアよ、コーディリアよ。詩行を辿れば、心の底では思い合う親子であった。 しかし言葉に捉われ、言葉が足りない先にこんな悲劇があろうとは…。なんて残酷なんだ…。
演劇業界で若い頃仕事をした経験があり、それなりにシェイクスピア作品も多く見て来た自分としては、久々の重厚な舞台に大興奮して、圧倒的な悲劇に酔いしれたものですが、はたと気づいた。
あ、今日引率だった。
20代の若者、大丈夫だったかな?
しかも韓国の子らは、そもそも物語を理解できたんだろうか?
でも大丈夫。そう、事前学習というものをしてきたから!!
これ、全くシェイクスピア観たことない人たちだけで、ネットの情報をもとにひも解いた図です。これはこれですごい!!
一人の狂人と三人の悪人、八人の善人が織りなす物語なんだなぁ、と。
ドヤアァァ!!
そしてよくよく考えれば、シェイクスピアの時代から、親子や兄弟姉妹、夫婦、愛人関係、主従関係というものは時代や解釈が変わったとしても万国共通で普遍的なテーマであるもの。
韓国から来た2名は、日本語がかなり堪能なため、早口や方言、訛りなどが一部入る部分以外は理解できたし、芝居の迫力や劇場の豪華な雰囲気は楽しめたようでした。
劇場の出口では興奮冷めやらぬ様子で感想を言い合う様子がこちら。
個別に感想を参加者に聞いてみました。
どのシーンがいちばん印象に残っていますか?
最後です!最後全員がバタバタ、ぐじゃぐじゃになって、みんな死んでいるシーンが面白かった。なんだか収拾がつかなくて、カオス感がたまらない感じだった!
私は舞台装置がやっぱすごかったなって!あと、演出も迫力あってすごかったなっていうのがいちばんの感想でした。特に一幕目の終わりの、本物の水使った嵐のシーンが印象的でした。水がめちゃくちゃ降って!本当の水を使うんだ!?って思っちゃった!
じぶんは最後の戦争して、フランスとブリテンが戦うじゃないですか。そのシーンで、殺陣がかなり気合が入っているなと。
それとは別に奥行とか、空間を活かした演出があったところも。
あと、役者さんも死んで倒れているシーンで、微動だにしないところがプロだなって思いました
リア王が錯乱して、もうわけわからないこと言っているシーンがすごかった。もうショックって言うか、俳優さんの演技がものすごすぎて。
本物の役者さんってすごいんだなぁって思いました!
なんかこれって、アドリブなのかな…?支離滅裂すぎて、演技とは思えない。最後、亡くなる前もすごいな、と。
娘だと、死んでいるのが娘だとわかるシーンもすごかった!!
っっよかった~~!!めちゃくちゃ楽しんでくれているじゃないですか!
作品に触れ、何かを感じ、その感想を言い合い、語り合う。
こうしたことが感性や内面の豊かさ、表現の獲得につながる経験になると思います。
若者たちと一緒にいい時間を過ごさせてもらいました。
この後28日(土)には日韓若者フォーラムで、ミュージカルピースを演じる彼らにとっては、舞台で表現するということを観ることで体感して頂けたのではないかと思います!